独り言

仏法を殺した「エゴの一言」。僧侶が絶対に忘れてはいけない、伝えるための大前提

私たち僧侶の最大の使命は、「仏法(教え)を人々に伝えること」です。 しかし、「伝える側」のエゴによって、その尊い機会が完全に破壊される瞬間を目の当たりにしたことがあります。

今回は、数十年前に私が体験した、ある研修会での苦い記憶をお話しします。

「どうすれば、仏法が相手に伝わるか」この絶対的な優先事項を見失った時、私たち宗教者がいかに滑稽で、罪深い存在になってしまうかという自戒の記録です。

300人の総代と、権威ある僧侶

数十年前のことです。行政区をまたいで各寺院の総代さんが集まり、合同で研修を受ける機会があり、私は住職として当山の総代さんに同行しました。

お寺や神社の「総代」という役職は、昔から名誉職としての意味合いが強く、特に地方に行けば行くほど、地元で長年事業を営まれている方が多く就かれています。 その日も、広いホールには300人以上の総代さんが集まっていました。きちんとしたスーツに身を包み、おそらく地元の名士や企業の会長職であろう方々が席を埋め尽くす光景は、なかなかに壮観でした。

研修のメインはパネルディスカッションでした。 進行役(コーディネーター)を務めたのは、同業の僧侶の中でも、かなり権威ある役職にお就きになっている方でした。

会場を凍りつかせた「政治的揶揄」

議論が活発に進む中、事件は起きました。 場が盛り上がってきたことで、コーディネーターであるその僧侶も、ご自身の個人的な主張をどうしても語りたくなってしまったのでしょう。

話の流れの中で突然、時の政権(保守系)を揶揄するような、強い政治的な発言をされたのです。

その瞬間、300人が集まるホール内に、ピリッと冷たく張り詰めた空気が流れたのを、私は今でも鮮明に覚えています。

一言で切り捨ててしまえば「空気を読んでいない」というだけの話かもしれません。 しかし、目の前に座っている数百人のスーツ姿の地元名士や経営者の方々を見て、「この層には、時の政権を応援している立場の方が多いだろう」となぜ想像できなかったのでしょうか。

エゴが「仏法」を台無しにする瞬間

誤解していただきたくないのですが、私は「僧侶は政治的な主張を持つべきではない」と言いたいわけではありません。 僧侶であっても一人の人間であり、社会を生きる市民です。様々な政治や社会問題に関心を持ち、社会活動をしていくことは当然ですし、必要なことです。

しかし、「仏法を伝える研修会」という場で、それを持ち出すのは話が全く別です。

私が同行した総代さん(地元の建設会社の会長さんでした)は、その政治的な揶揄を聞いた瞬間から、静かに目を閉じ、席でお休みになってしまいました。完全に心を閉ざしてしまったのです。

結果としてどうなったか。 その日、本来伝えるべきであった大切な仏教の教えは、ただの一つも総代さんの耳に届くことなく、研修会は終わっていきました。 コーディネーターの「自分の政治的主張を言いたい」という個人的なエゴが、300人に対する仏法を伝える貴重な機会を、見事に台無しにしてしまったのです。

何よりも優先すべきは「どうすれば伝わるか」

私たち僧侶は、時に「正しいこと(正論)」を言えば相手に伝わると錯覚してしまいます。 しかし、人は「自分が受け入れられていない」「反発されている」と感じた相手の言葉には、絶対に耳を貸しません。

どれほど素晴らしい仏法を用意していても、聞く側の心の扉を自ら閉ざさせてしまっては、全く意味がないのです。

私たちが何よりも優先すべきこと。 それは「自分が何を言いたいか」ではなく、「仏法をどのようにしたら相手に伝わるか」という一点に尽きます。 そのために、目の前にいる方の背景を想像し、言葉を選び、時に自分の個人的なエゴを飲み込む。その忍耐と想像力こそが、僧侶にとって最も大切な「伝えるための作法」なのだと思います。

数十年前のあの凍りついた空気と、隣で眠ってしまった総代さんの横顔は、今も私にそのことを厳しく教え続けてくれています。


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