「引っ越しを機に、新しくお寺とお付き合いを始めたい」
「いざという時に慌てないよう、元気なうちに菩提寺を決めておきたい」
最近、このような前向きなご相談を受けることが増えてきました。誰かが亡くなってから慌てて葬儀社に紹介されるのではなく、生前に自分たちの目でお寺を探すことは、後悔しないために非常に大切なことです。
しかし、一般の方にとって「良いお寺」の基準はなかなかわかりづらいものです。立派な本堂、整った設備、アクセスの良さ。もちろんそれらも判断材料になります。
ですが、僧侶としてこれからお寺を選ぶ方にどうしてもお伝えしておきたい「リアルな基準」があります。 今回は、同業者からは少し顔をしかめられるかもしれない、そして私自身も非常に身を切られる思いのする「お寺選びの絶対条件」について、正直にお話ししたいと思います。
1. 結局は「人柄」。店主が嫌いな店には通えない
まず大前提として一番重要なのは、設備でも宗派でもなく「住職の人柄」です。
お寺とのお付き合いは、数年で終わるものではありません。あなたの子や孫の代まで続く、数十年にわたる長いご縁になります。 どんなに素晴らしい教え(商品)があり、立派な本堂(店舗)があっても、そこにいる住職(店主)の人間性が好きになれなければ、自然とお寺から足が遠のいてしまうでしょう。
僧侶も人間であり、あなたも人間です。当然、合う・合わないという相性は存在します。 だからこそ、いざという時が来る前に、実際にお寺へ足を運び、住職と直接お茶でも飲みながら世間話をしてみてください。その時の話し方、表情、空気感。あなたの直感が「この人なら長く付き合えそうだ」と感じるかどうかを、何よりも大切にしてください。
2. あえて「離檀(お別れ)」のペナルティを聞いてみる
とはいえ、数十分の会話だけで人間の本質をすべて見抜くことは不可能です。 そこで、相手の考え方や本音を知るための、少し踏み込んだ質問をおすすめします。
それは、お付き合いを始める前の段階で、あえて「もし将来、引っ越しや環境の変化でこちらのお寺を離れなければならなくなった場合、離檀料などはありますか?」と聞いてみることです。
これからご縁を結ぼうという時に、別れの話をするのは気が引けるかもしれません。しかし、だからこそ住職の「素」が出ます。 もしこの質問で不機嫌になったり、曖昧にお茶を濁したり、「何百万円かかりますよ」と脅すような態度をとる住職であれば、お付き合いは見合わせたほうが無難でしょう。 逆に、「事情があるなら仕方ありませんよ。うちは離檀料などは一切頂いておりませんから、安心して今を大切にお付き合いしましょう」と笑顔で答えてくれる住職なら、その言葉には本物の慈悲と誠実さが宿っています。
3. 残酷な事実。「専業」のお寺をおすすめする理由
そして最後に、非常に現実的でシビアな基準を一つ提示させていただきます。 それは「そのお寺が専業であるかどうか」です。
専業のお寺とは、お檀家の皆様からの布施収入のみで、お寺の維持と住職家族の生活が成り立っているお寺を指します。 対して「兼業」のお寺とは、平日には会社員や公務員として働いていたり、別の事業(介護施設や教育施設など)を併設して生計を立てているお寺のことです。現在、全国の寺院の半数以上がこの兼業寺院だと言われています。※都市部においては、別の事業をされていても専業並みに大きいお寺もあります。
実は、私が住職を務めるお寺も「兼業」です。 兼業の住職たちは皆、過疎化などで檀家数が減る中、なんとかお寺の歴史の火を絶やさないよう、身を粉にして働きながら必死にお寺を護っています。ですから、同業者として、そして私自身のこととしても、この事実を申し上げるのは本当に悲しく、辛いことです。
しかし、これから新しくお寺を選ぶあなたの視点に立てば、あえて「専業のお寺」をおすすめせざるを得ません。理由は大きく二つあります。
一つ目は「時間的な余裕」です。 住職が別の仕事を持っていると、どうしてもお寺や檀家さんに割ける時間が限られます。平日の昼間に突然の不幸があってもすぐに駆けつけられなかったり、ゆっくりと悩み相談に乗る時間が取れなかったりする物理的な壁が、どうしても生じてしまうのです。
二つ目は「永続性と金銭的負担」です。 兼業にならざるを得ないお寺は、裏を返せば「お寺を支える檀家さんの数(分母)が少ない」ということです。数十年後、老朽化した本堂の屋根を数千万円かけて修繕しなければならなくなった時、分母が500軒ある専業のお寺と、分母が50軒しかない兼業のお寺とでは、一軒あたりにのしかかる寄付の負担額は単純な割り算だと10倍となり、全く違ってきます。最悪の場合、維持できずにお寺が消滅してしまうリスクも、兼業のお寺の方が高いという現実があります。
結び:すべてを知った上で、心で選ぶ
自坊が兼業でありながらこのような記事を書くのは、自己否定のようでお恥ずかしい限りですが、お寺選びで後悔してほしくないという一心でお伝えしました。
もちろん、兼業であっても素晴らしい人格を持ち、寝る間を惜しんで檀家さんに寄り添う僧侶はたくさんいます。条件だけで全てが決まるわけではありません。
専業か兼業かという「構造的なリスクと現実」をしっかり頭に入れた上で、最後はやはり、直接会って話した時の「この住職となら一緒に人生の最後を歩んでいける」という直感を信じてみてください。
あなたの残りの人生に寄り添う、素晴らしいお寺とのご縁があることを心より祈っております。
