「地方のお寺がどんどん姿を消していく」 時折ニュースなどでも取り上げられる話題ですが、現場にいる者として、これは決して大げさな煽りではなく、静かに、しかし確実に進行している「変えることのできない事実」だと感じています。
全国には約7万7千のお寺がありますが、今後数十年の間にその3割から4割が消滅、あるいは無住(住職がいない状態)になるという予測データもあります。
地方を中心に進む人口減少と、都市部への一極集中。 今回は、この抗えない時代の大きな波の中で、私たちお寺が直面している「統廃合」という未来について、あえて異業種の歴史を振り返りながら、少し現実的なお話をしたいと思います。
「お寺が町を作った時代」の終焉
歴史を振り返ると、昔はお寺という存在が地域の中心でした。 有名なお寺が新しく建立されたり、どこかへ移転したりすると、それに伴って人々も移動し、門前町や寺内町といった新しい町が形成されることがよくありました。お寺の周りに人が集まり、経済が回っていたのです。
しかし、現代は全く違います。 進学や就職を機に若い世代が都市部へ流出し、地方の人口が減少することは、もはや誰にも止められません。人がいなくなれば、当然ながら地方でお寺を支え、維持していくための絶対的な分母(檀家さんの数)も減少します。 現代において、お寺が動いたからといって人がついてくることはありません。地方のお寺が単独で生き残っていくことは、構造的に極めて難しくなっているのです。
保険業界の「統廃合」に学ぶこと
このお寺の減少問題について考える時、私は数十年前から一気に進んだ「保険業界の統廃合」の歴史を思い起こします。
かつての保険業界は、全国各地にある無数の小さな「代理店」が地域に密着して顧客を開拓し、業界全体を支えていました。しかし、時代が変わり、インターネット経由での直接契約(ネット保険)が台頭し始めると、状況は一変します。 コスト削減やコンプライアンス強化の波の中で、小規模な代理店が単独で生き残ることは困難になり、大規模な代理店同士の合併や、保険会社(直営店)への吸収といった統廃合が急速に進んだのです。
その際、小さな代理店の社長たちはどうしたか。 彼らは、これまで築き上げた顧客(契約者)のリストを直営店や大型代理店に引き継ぎました。そして自らもその直営店に勤務し、形を変えて顧客のフォローを続けるという選択をしたケースが多くありました。
もちろん、利益を追求するビジネスの世界と、宗教法人であるお寺とを完全に同一視することはできません。 しかし、「支える基盤が変化した時、いかにして顧客(檀家さん)を守りながら拠点を集約していくか」という構造的な課題は、今の仏教界が直面している状況と非常に似ていると感じるのです。
檀家さんの負担にならない「ソフトランディング」を
地方のお寺が単独で維持できなくなる以上、今後、お寺同士の合併や統廃合は避けて通れない必然の道となります。
その時、私たち僧侶が最も真剣に考えなければならないのは、「いかにして檀家さんの金銭的、精神的な負担を減らし、痛みの少ない形で進めるか」ということです。
住職が生活できなくなり、ある日突然「お寺を閉じます。あとは皆さんで勝手に別の菩提寺を探してください」と無責任に投げ出すことは、絶対にあってはなりません。
例えば、近隣の複数のお寺がひとつの大きな寺院(本院)に合流し、元の住職たちはその本院の僧侶として、引き続きこれまでの檀家さんのご法務を担当する。あるいは、建物の維持管理費を削減するために、複数の寺院で一つの本堂を共同利用(シェア)する。 そうした、保険業界の吸収合併にも似た「ソフトランディング」の仕組みを、今のうちから地域レベルで構築していく必要があるのです。
結び:未来の祈りの場を残すための決断
「お寺がなくなる」「他のお寺と合併する」という言葉は、何代にもわたってそのお寺を護ってこられた檀家さんにとって、非常に寂しく、受け入れがたいものかもしれません。
しかし、無理に単独での存続にこだわり続け、建物の老朽化や経済的な破綻によって修復不可能なトラブルを招くよりは、現実を見据えた前向きな「たたみ方」や「集約」を選ぶほうが、結果的にご先祖様を安心してお祀りし続けることに繋がると私は信じています。
変えられない現実を前にして、思考を停止してはいけません。 未来の世代に過度な負担を残さず、誰もが安心して手を合わせられる「祈りの場」を持続させるために。私たち僧侶は今、古い慣習にとらわれない柔軟な決断を迫られているのです。
